ららら科學の子

2006年11月28日 読書
矢作 俊彦
文春文庫 本体667円+税

傑作です。
変わり果てた日本の変わらない姿を克明に描き出した、
50を過ぎた男の青春小説。
矛盾してるようで矛盾していないのです。
本当に面白い小説でした。

学生運動に身を投じた男が殺人未遂に問われ、文化大革命の渦中の中国に密航する。
農村で30年過ごし帰還した男は、日本に一体何を見るのか?
ってのが導入です。
で、主人公はタイムスリップしたかのように扱われます。
男にすれば1968年の東京こそが『今』で、
21世紀の東京は『未来』でしかないのです。
そんな男の目から描かれる東京が非常に面白いんです。
普段何気なく目にするものに新たな意味を与える視点。
いやあ、小説の醍醐味ですね。
省略の利いた密度の濃い文体と相まって、非常に素晴らしい。

男が東京を彷徨いながら覚醒に向かう様も大変良いのですが、
まあ、こちらはあんまり言及すると、筋をばらす事になるので、
控えておきます。(分かったからって問題ない類の話ですが)

実に面白い小説なんでお薦め、と言いたいところですが、
少し(もしかするとかなり)人を選ぶところがあるので、
導入で面白そうと思った人以外は微妙かもしれません。
(どんでん返しとか、ミステリ要素とかはないですよ、あしからず)
間違いなく言える事は、この小説が大好きだ、ってことだけです。

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